Back to Top↑

デジタル時代の撮影:「ロバート・ハインデル原画撮影」

生涯、バレエダンサーを描き続けたアメリカの鬼才ロバート・ハインデル氏の画集
「ロバート・ハインデルの至芸」の原画撮影を担当しました。
発行者の許可をいただき、ここに、その中の26点を紹介させていただきます。

「ロバート・ハインデルの至芸」
著者:ロバート・ハインデル
編者:出川博一
発行者:鳥居昭彦
発行所;株式会社シングルカット
印刷:図書印刷株式会社

デザイン:シングルカット社デザイン室
写真:井手宏幸/高橋昇
題字:天遊
翻訳(英訳):ジョン・タムラ
翻訳(和訳);大迫亜朗
編集助手:せきねちか
編集協力:講談社

「ロバート・ハインデルの至芸」は、こちらで販売されています。
http://www.singlecut.co.jp/
http://artobsession.shop-pro.jp/?mode=grp&gid=154679
01 02 02 02 02 02 02 02 02 02 02 02 02 02 02 02 02 02 02 02 02 02 02 02 02 02
※最後のカットのみ、横幅が長い関係で別ウィンドウで開くようになっています。

撮影ノート

 絵の撮影と言うジャンルは、プロの間では、「複写」というジャンルになるのでしょうか。 絵をガラスで圧着して壁に水平に固定、レンズの光軸を絵の上下左右のセンターに垂直に向け四方から絵にライトが写り込まないようにして撮影します。 フィルム時代のライティング技術としてはベーシックなものでした。

しかし、今回、様々な条件で絵画を撮影してみて、フォトグラファーに求められる事がフィルム時代とは大きく異なってきたことを実感しました。 今回の撮影では、コレクターのお宅に伺って撮るという状況もあって、「引き」のないスペースで、レンズの選択、カメラの位置がかなり制限されました。 こういう条件下だと、フィルム時代だとアウトで、まず、正常な結果が期待できませんが、デジタル時代では、ソフトウェアを駆使することにより、ほとんど期待どおりの結果が得ることができます。

これには、Capture One Pro(以後C1と表記) と Photoshopという素晴らしい画像処理ソフトの存在抜きには語れません。またデジタルバックの存在も不可欠でした。ハイエンド35mmフルサイズとは比較にならないダイナミックレンジ、画像処理を重ねても破綻しない許容度。それらの性能を身を以て知った撮影でした。 その辺の感想をちょっとメモしてみました。

ディストーション(歪み)とパース(遠近感)

  • ディストーションは、レンズの性能やレンズと被写体の距離によって生じる様々な歪みです。
  • パースは、レンズが被写体の中心に水平垂直に向けられていないことによって生じる遠近感による被写体の変形です。

これらの問題は、被写体が引きのあるスタジオ等に設置されて、カメラも垂直水平に向けられている場合にはあまり問題になりません。 しかし、撮影は常に困難と隣り合わせです。コレクター氏での撮影では、絵の大きさ部屋のサイズの問題もあって、上記の2点を満足させるセッティングは不可能でした。結果、オリジナルのデータに写った「絵」は四隅が歪み、変形したものでした。 これを完全に解決してくれたのが、C1 Proの、レンズ補正>ディストーションとキーストーン機能(ツール参照)です。デジタルバックのRawデータの段階で補正を行うため画像の劣化はほとんど見当たりませんでした。 フォトショップにも歪み補正機能はありますが、処理中の画像の動きがとても重く、画像劣化や他の処理との連携を考えると、やはりC1で処理すべきでしょう。

画像のクリアネス

今回の絵はすべてガラスかアクリルで額装されていました。ガラスは問題ありませんが、アクリルの場合は、肉眼で見ても絵が若干フォギー(もやって)に見えます。 データを見ると、やはりフォギーでした。これを解決してくれたのがC1の透明度ツール(ツール参照)です。ほとんどアクリルなしで撮った状態に持って行けました。コントラストの増加もデジタルバックの超ワイドなダイナミックレンジが吸収してくれて、ほとんど問題ありませんでした。

補間作業

校正段階で、絵の部分アップの注文がありました。主に筆のタッチ等のディティールを見せるためです。予めアップする部分が分かっていれば、マクロレンズで拡大撮影すれば問題ありません。が、それをしなかったため、補間拡大するという作業になりました。もう大変な拡大率になるので暗澹たる気分になりましたが、C1で必要なサイズに補間拡大し、Photoshop上で、注文の大きさにクロップするという作業になりました。さすがに、いくら処理に強いデジタルバックと言えど、プロが見たらちょっと厳しいかな!という画質になりました。が、画集の上がりを見てびっくり、製版技術と印刷技術でここまで持って来るか!という仕上がりになっていました。

最大の問題

「オリジナルの絵が、どんな色調、明るさ、コントラストを持っているのか?」認識するということは、どんな条件下で見たのか、どんな心理状態で見たのかで違ってくると思います。撮影前にオリジナルの絵と、以前にその絵を複写したフィルム(ポジ)を見せていただきましたが、明らかに、その時に見た原画とフィルムとは違っていました。

一言で言えば、フィルムが勝手に色とコントラストを創ってしまっている。ということでしょうか。フィルムはコダックでしたが、これがフジだったら同じ絵だとは思えない程色が変わってきます。しかし、そのフィルムを忠実に再現した絵をご覧になった方はそれを、原画だと思うわけです。デジタル時代のフォトグラファーは、フィルム現像に相当することを、自ら処理して、ある意味、絵を創らないといけません。

その場合、フォトグラファーは、撮影の条件下で見た絵の記憶を便りに現像処理します。しかし、そのデータを見た、ディレクター氏は、それは少し違うと思うかもしれません。記憶と主観の違いをどこかで妥協させないといけません。今回は私は私なりに、なるべくニュートラルな状態に現像して、それを参考に、処理を再指示していただくか、製版の前段階で制作サイドに処理していただくか。というプロセスになりました。特に、ディレクター氏がご覧になっていない絵があって、それに関しては、記憶色が存在しないわけですから、大変困難な作業だったと思われます。

これだけの難儀な作業にも係らず、自分でも驚くほどの結果が出たのは、ひとつには、画像データを最高の状態に最適化していただいた製版技術者の優秀さに負う部分が大きいと思います。やはり制作は総合力だと感じた仕事でした。ハインデル氏のご子息を含め原画を最も良く知っている関係者の方々から本の出来に関して絶賛していただき、私としてもほっとしているところです。

撮影データ
MamiyaDF+120mmMacro+DM22(Leaf Aptus-II 5)+Capture One Pro 6+PhotoshopCS4 2400Ws ストロボ1灯~4灯使用