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写真論:「ポートレート」1.

仕事で被写体を撮影する時間は、5分〜例外的に長くて1時間程度。そんな短い時間に、初対面の人の「内面」が撮れるとは、私は思っていません。ただ、写ってしまうことはあると思います。いや写ったと錯覚してしまうことはあると思います。

世界的なアーティストやセレブリティを連載で撮っていたことがありますが、一芸に秀でてその世界のトップまで上り詰めた人ばかりなので、こちらが何も言わないで、ただ座ってもらって、その姿を撮るだけで、それなりの、わけありげな力強い写真が撮れてしまいます。その写真を見た読者は、カメラマンが何も考えずにただ撮っただけだとは思いません。ただ、こういう「写ってしまっただけの写真」が私は嫌で、必ず、何かコンタクトを持って、その話に反応した被写体、私自身に反応した被写体を撮らないと、ポートレートを撮ったという気にはなりませんでした。でなければ、私がわざわざ撮る意味がないからです。

大げさに言えば、そこに写っているのは、私の存在に被写体が反応している写真でないと意味がないと考えています。自己満足に聞こえるかもしれませんが、写真のスタイルというのは、そういう作業の中から自然に出来上がってくるものだと思っています。

巨匠リチャード・アベドンは、トリッキーな会話で被写体の意外な表情を引き出す名人でした。下記のリンクのセレブリティ夫婦のポートレートは、アベドンが撮ったものです。
http://www.richardavedon.com/#mi=2&pt=1&pi=10000&s=0&p=6&a=0&at=0

とても悲しそうな表情で、何が起こったのかと考えてしまうような印象的な写真ですが、
この写真、シャッターを切る直前に、アベドンは、夫妻に、
「ここに来る途中、私の車が子犬を轢いてしまって、、、残念ながら、、、。」
と語ったそうです。その瞬間に、愛犬家として有名だった夫妻は、ご覧の写真のような表情になったというわけです。
子犬の話は勿論ウソで、こういう撮り方は、常識的、道徳的にどうか?という人もいると思いますが、とても興味深い方法だと思います。

ウィンストン・チャーチルの肖像写真等で有名なユサフ・カーシュという巨匠がいます。
http://www.karsh.org/
彼が、大指揮者レナード・バーンスタインを撮影した時の様子を記録したフィルムを80年代に放送されたナショナルジオグラフィックTVで見た事があります。
カーシュはその時にバーンスタインに、肘をついて手でポーズをとるように指示します。もともと写真嫌いのバーンスタインは、
「私は、そんなポーズは絶対にしないから、断る!」
と怒りながら拒否しています。カーシュも負けずに、
「あなたがそういうポーズをしている写真を私が撮りたいからお願いしているのだ。それが私の仕事なのだ。」
と一歩も譲りません。そのしつこさに、さすがのバーンスタインも折れてしまって、カーシュは撮影に成功します。撮影後、バーンスタインは、君には負けたよと潔く兜を脱いだ様子でした。

このように、「自分の相手に対するイメージ」を押し付けてまで撮るのも、ポートレート撮影のひとつのスタイルだと思います。ただ、そのためには、カメラマンの方にも、修羅場を渡ってきた経験と、一癖二癖あるようなキャラクタ、相手を納得させる迫力が必要なのかもしれません。

写真下はフランスの大女優ヴィルジニー・ルドワイエン。撮影時はまだ新人でした。撮影に行くと、わがままで有名な彼女は、
「今日は撮影は嫌だ。中止にして。」
とだだをこねて、スタッフを困らせていました。私が、
「せっかく来たのだから、写真を撮らせてください」と 、
彼女の目を見ながらにこにこしながら語りかけると、急に気を取り直してご機嫌になった彼女は、こちらを信頼してくれて、予定時間をオーバーするほどつき合ってくれました。ポートレートの撮影には何はともあれ、コミュニケーションが大事なのだと納得した撮影でした。それがなかったら1カットも撮れなかったわけですから(MamiyaRZ67+180mm、Film PlusX、Paper Forte)。



 

 

 

コラム

※タバコ自販機に購入者の顔を判別する装置が付いているとか。20歳以下だと判別するとタバコは買えないようになっているようです。ある少年が、それでも認証をくぐり抜けタバコを購入したと話題になっていました。なんでも、しかめっつらっをすると認証されて、笑っているとだめだとか。
笑った顔=こども
しかめっつら=おとな
と判別するようになっているのでしょうが、短絡的だといおうか、世の中大部分がそうなっているのか笑ってしまいます。この場合、おそらく認証プログラムは口角が作る口びるの角度で笑顔かしかめっつらかを判断しているのではないのでしょうか?目の表情は意外と無表情な場合が多いです。口は笑っていても目は笑っていないという不気味な人、多いですし、、。等といろんなことを推測していたら、今度は、明らかに「おとな」なのに、自販機からたばこの購入を拒否されたという人が新聞で紹介されていました。なんでも、その人は、 「いつも笑っているような顔」なんだそうです(^∇^)