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人物撮影:演出(被写体をどのようなシチュエーションで撮るのか)

人物撮影は、プロの場合、仕事の内容によって、インタビュー中、討論中の表情をスナップ的に狙う場合や現場・スタジオでポートレート的に撮る場合が多いと思います。ここでは、スタジオや部屋でカメラマンと被写体が一対一で撮る場合を考えてみます。
この際のテクニックは、大まかに、
  • 演出(被写体をどのようなシチュエーションで撮るのか)
  • ライティング(照明)
  • 被写体とのコミュニケーション
に分かれてきます。
演出は、例えばスタジオ撮影の場合、
  • 背景の色は、テクスチャーは?
  • コスチュームは何にするのか?
  • メイクはどんな感じで?等です。
バック(背景)の問題は、掲載される特集等の内容や、作品撮影の場合は撮影意図に絡んでくるので、一概には言えませんが、乱暴な分け方をすると、
  • 黒・グレー:オーソドックスで、被写体が浮かび上がるような感じ
  • 白:ファッション・フォト的な洗練された雰囲気
  • 色バック:被写体のキャラクターを強調したり、コスチュームとコントラストを付けたりする
  • ムラバック:写真館の肖像写真的になることもあるが、はまると美しい
となります。背景の選択と同時に大事なのが、被写体と背景との距離です。被写体と背景の距離が中途半端で短いと、写真は、正直にその空気感を写しこんで、窮屈な感じになります。逆に背景・壁に張り付かせると、影の効果もあって、緊張感が出てきます。背景のボケや影も撮影直前のテスト撮影でしっかりとチェックして、自分のイメージに近い距離を決めておきましょう。

yizumiアメリカの巨匠、バート・スターンは、1960年代に一連のセレブリティ・ポートレートの傑作を残していますが、被写体には全員、黒のタートルネックを着せて、ダークグレーのバックで撮っています。ライティングも、角度をつけた強い光で、コントラストを付け、カメラアングルもやや下から狙い、落ち着いた雰囲気を出しています。 これは、写真を見る人の視線を自然にモデルの顔に集中させる古典的な方法です。私も、被写体によっては、この方法で撮る事があります。
左の写真(歌手:雪村いずみ)は私が女性誌のために撮ったものですが、同じような演出です。事前の打ち合わせで黒でまとめてもらいました。背景のムラバックは自分でペイントしたものです。カメラ目線より、こちらの方が自然だったので、このカットを掲載することになりました。

同じアメリカの巨匠、アービング・ペンは、 白を飛ばした背景でファッションやポートレートを撮っています。 現在では白飛ばしの背景は一般的になっていますが、世界で最初にこの技法を考え出したのがアービング・ペンです。 当時(1950年代)は黒背景のオーソドックスなファッションフォトが全盛だったのでので、ペンの白バックは、かなり不評だったそうです。しかし、時代が彼に追いついてきたのでしょう。すぐに白バックが主流になりました。その辺がアービング・ペンの凄いところです。アービング・ペンは昨年92歳で亡くなりましたが、その訃報をレポートしたページに、ペンが撮った上述のバート・スターンのポートレートがありました。
http://www.cnbc.com/id/33214155

日本では、無名ですが、やはりNY在住のウィリアム・クーポンという写真家がいます。この写真家は、狭い自分のスタジオで、ムラバックを背景にローライフレックス+標準レンズだけで、定点観測的にセレブリティのポートレートを撮り続けています。ライティングもほとんど同一のようです。以下のURLで作品を閲覧できます。
http://www.williamcoupon.com/
こういうスタイルもとても面白いと思います。カメラマンもミュージシャンもそうですが、ぱっと見て(聴いて)すぐに誰の写真か歌か分かるというのは、大事なことだと思います。

次に服の問題ですが、一般的に言って、派手な色や柄のコスチュームは、写真を見る人の注意を散漫にさせることがありますが、派手な服でも、被写体の個性のひとつとして、うまくまとめることができると、強い写真になると思います。その辺は、被写体本人や、スタイリストさんと事前に打ち合わせをした方が結果は良いでしょう。そして迷っている場合は、なるべく多くの選択枝(この場合服の種類)を揃えてもらい、現場で選択するのが良いと思います。結構意外な組み合わせが思わぬ良い結果を生む事があります。写真は現場主義と言っても、撮影までにできるだけ詰めてベストを尽くすべきだと考えます。

ヘアメイクは、スタジオ撮影の場合、被写体の男女に関係なく、重要なファクターになります。肉眼で見るヘアメイクと、写真に写るそれは少し違います。メイクさんも、メイクの途中で、いろいろと私に相談してくることが多く、私もメイクに関する知識や、どのように写るのかという感覚や知識ができたきたように思います。それから、仕事をお願いするヘアメイクさんは、なるべく話上手で、明るい人が良いでしょう。撮影前に一時間近くも被写体と接しているわけですから。被写体をリラックスさせてくれるのは、ヘアメイクさんなのです。


人物撮影:ライティング

ストロボによるスタジオライティングを行う場合、撮影意図によって、まず光りの質が重要なポイントとなってきます。様々な光質を
  • 光源部をそのまま使った場合、
  • 光源部に付けるリフレクタを大きなものにした場合
  • グリッド(光源部に付けて、スポット的な効果を狙う)を付けた場合、
  • アンブレラにバウンスした場合
  • ライトパネルを配置し、後方からダイレクトにストロボを発光させる場合
  • ライトパネルを配置し、後方からアンブレラでストロボをバウンスさせる場合
  • バンクライトを使う場合
を撮影意図や要求によって使い分けます。

panel 光の質を変えるために多くの照明アクセサリが出ていますが、自分でいろいろと考えて「新しい光」を発見するのも、表現の幅を広げることに繋がると思います。私は、ライティングをセットする場合に、必要なライトは「点」か「面」か?ということを考えます。「点」は、ストロボ(大型のジェネレータ式のストロボ)発光部をそのまま使う場合と、アンブレラを使った光「面」は、バンクライトか、ディフューザーの後方にアンブレラを配置したライト構成です(写真上)。そして、「点」も「面」も、基本的に1灯(1セット)で完結するように構成を考えます。影になる部分を補うためにもう1灯使うと、バランスを考えたとしても、光の方向性が曖昧になってしまうからです。

「面」光源を使う場合は、できるだけ大きな「面」を被写体に近い場所に配置して、被写体に光が自然に回るようにして、もし、シャドウが気になる場合は、レフ版で自然に光を補うようにします。「面」の大きさは、人物の場合、シチュエーションによって異なりますが、120cm×100cmと、183cm×183cmの面光源を使用しています。前者はバンクライトで(上掲載の雪村いずみさんの写真)、後者は、デフューザーの後ろにアンブレラを2灯配置したものです(写真参照、この1セットで1灯と考えます)。配置は、「斜め前方45度上」もしくは、サイドから。稀に自分の真後ろからになります。被写体に十分諧調を持たせ、コントラストのある「絵」にしたい場合は、カメラに入るぎりぎりまで「面」を近づけます。フラットな絵が必要な場合は、「面」を離し、諧調をフラットにします。

諧調は、被写体から光源までの角度と距離によって決まります。例えば、モデルさんの額の斜め上前方50cmにライトを配置したとしましょう。この場合、額の部分とバストの部分の露出差は、光の質によっては、1段位になってしまうことがあります。この場合、額の部分からバストにかけて急に暗くなるようなコントラストの強い諧調になります。しかし、ライトを被写体から3mも離すと、その露出差は三分の一以下にまで縮まり、コントラストは無くなってきます。どちらが良いかの問題ではなく、好みの問題、もしくは、どちらが必要かの問題となってきます。ライトの角度も重要ですが、距離も大きな意味をもってきます。

「点」光源は、ノーマルの発光部に大きめのリフレクタを取り付け、リフレクタ全面にデフューザーを張ったものを常用しています。あと、自分では所有していませんが、オパライトを使うこともあります。力強さやクリアネスを狙った場合、この「点」光源は威力を発揮します。「最高のモデルにベストなヘアメイク」の時には、シンプルな「点」光源1灯で撮る方が、あれこれライティングに凝るより力強い絵になるものです。モデルの正面上に「点」光源を配置して、鼻の下に三角形の強い影が出るようなライティングをプラスチックライティングと呼びますが、アメリカではポピューラーなライティングです。左写真は「点」光源を使って撮ったポートレートです(Sinar4×5)。

 

コラム

※背景を「白とばし」で撮る場合は、白バックに、被写体とは別にライト(ストロボ)を当てますが、日本では、アンブレラやレフボックスにバウンスして当てることが多いように思います。しかし、アービング・ペンをはじめ、NYのフォトグラファーたちは、デフューズせずに、ダイレクトに光を当てていました。これで均一に当てるためには、多くのライトが必要になりますが、白が滲まずに締まった感じになるからというのが理由だそうです。ただ、デジタル時代になった今では、白バックは、簡単に切り抜きができて、完全な白背景に合成できるので、あまり神経質にはならないで良いと思います。その場合、切り抜き後のブラシの処理など、いかに自然に見せることができるかが、フォトグラファーのテクニックのひとつになってくると思います。実は、この分野では、モノクロプリントのテクニックが生きるのです。

※ いわゆる大型ストロボと呼ばれているストロボは、電源部と発光部が別々になっていて、電源部は通常1200w/sか2400w/sの出力です。ストロボは、電気をプールして瞬時に発光部に放電するわけですが、そのときに稀に電源部が爆発することがあります。私も昔経験しましたが、それはそれはものすごい音と煙でした。その後、ストロボを使うときはびくびくしたものです。アメリカにはこの電源部が10,000w/s近い「オスカーサンライト」という巨大ストロボがあります。NYのスタジオで、実際に使用するのを見ましたが、電源も発光部も巨大で、発光する瞬間は稲妻のような迫力でした。このストロボも、たまに火を噴いたり、爆発することがあって、そのときは、回りにいるスタッフ全員、床に伏せるそうです。