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写真をイメージする。「記録する写真」と「演出する写真」

写真は大きく分けて、「記録する写真」と「演出する写真」の2つに別れます。記録する写真は、例えば「お祭り」とか「結婚写真」。撮る方で、被写体に寄ったり、レンズを選択したり、表情を狙ったりして、シャッターチャンスや構図によって自分らしい写真を表現しますが、基本的には対象をあるがままに撮ります。
それとは対極にあるのが、「演出写真」。カメラマンが被写体(人間、物)を自由に動かし、背景や光をコントロールして、自分の世界を創ります。
身近なものでは、映画がそうでしょう。映画監督、シナリオライター、カメラマン、演出家が、ロケ場所を決定し、俳優に演技指導し、照明を組み立て、カメラのアングルを決めて、シナリオを映像化します。 シナリオというシナリオライターのイメージを文字化したものを映像化するわけです。

お茶

一般の方には、なじみがないかもしれませんが、女性誌等の雑誌の撮影などは、ほぼ、この映画のプロセスと同じような過程を単純化して、撮影を進めていきます。
編集者が、テーマに従って簡単なラフスケッチを作る。
例えば、「お茶の特集」をする場合、テーブルにお茶とお茶菓子を乗せたところを扉の写真にするとか。
編集者はカメラマンに漠然と、「こんな感じの絵がほしい」と、漠然としたイメージを伝えます。
カメラマンは、「じゃあ、テーブルクロスとか、茶器はこんなものが欲しいな」とスタイリストさんに伝え、それらを揃えてもらいます。私の場合は自分で集めることもありました。

カメラマンは、次に、それらをスタジオで撮るのか、日当たりの良いリビングの窓際で撮るのかを、編集者と相談しながら決めます。

撮影現場で、カメラマンは、テーブルクロスや茶器を配置して、撮るアングルを決めたりします。部屋に入る光がきれいだと、自然な感じを出すために、そのまま自然光で撮りますが、トーンを整えるために、レフ板で光を補ったり、意図的にストロボで、自然光のような感じを出すこともあります。

まず、最初のカットをチェックしてみます。昔はポラロイド、今はノートブックPCで映像をチェックすることになります。
一発で編集者もカメラマンも満足してOKになることもありますが、
「ちょっと違うなー」
なんてことになり、アングルを変えたり、ライトの方向を変えたり、小物を加えたり、除いたりして、理想のイメージを目指して再びシャッターを押します。
そして再びチェック
「んっ!これいいね。これでいこう!」なんて感じで、やっと写真が完成するわけです。
広告の場合は、アートディレクター氏が、細かいスケッチを用意してくるので、カメラマンはディレクター氏の世界を実現するために、四苦八苦します。
しかし、映像化の主導権を握るのがディレクターかカメラマンかの違いで、プロセスとしては、エディトリアルも広告も、基本は同じです。

実は、一般の方がプライベートな写真や趣味の写真を撮る場合にも、こういったプロセスをちょっと応用すると、写真が劇的に違ってきます。
ただ、こういうノウハウは、一般化して伝えるのことが難しく、準備段階や、現場で、とっさに判断したり、経験に頼ったりすることが多いのです。
余談ですが、ウェブショップを経営する方が、売りに出す商品を自分で撮ろうと、商品撮影講座に出かけ、いろいろと撮影技術を学んだらしいのですが、いざ、撮影の段階になったら、どう撮ったらよいかわからなくなった。という話を聞きました。
それは当たり前で、それでクオリティの高い写真が撮れたらプロのカメラマンは必要ありません。実際にシャッターを押す作業前後の大事なプロセスが欠落しているのです。

写真には、実にさまざまなプロセスや技、撮る人の審美眼、感性、機転が注ぎ込まれているのです。
これらがないと、ただ何となく写っている写真。になってしまいます。
テクニック本や、写真講座、情報商材で、実に詳しく、撮り方を解説している例を見かけますが、撮影を、「こうすれば撮れる」と一般化することは難しいと思います。撮影は、その現場現場で、ノウハウが違ってきます。ベテランのフォトグラファーのほとんどは現場主義なのです。

撮りたい被写体があって、まず、あなたはその被写体からどういうイメージを思い浮かべ、映像化するのでしょう?
私は、その時点で、写真の出来が、ほとんど決まってしまうと考えています。
例えば、漠然と「食」といったテーマがあるとします。
そこで、あなたが、「食」をどうイメージ化するのか?あなたにとって「食」はどういうイメージなのか?その過程が写真の方向性を大きく決めます。

food
例えば
  • 昔ながらの日本の家庭の一汁一菜を質素なテーブルの上に配膳したイメージ
  • 肉の塊や、新鮮な魚、水滴がついたみずみずしい野菜が無造作に並べられているイメージ
  • パン、チーズ、野菜が意図的構図的に配置された静物画的なイメージ

これらのイメージ化の数が多ければ多い程、表現力の選択肢は広がって行きます。これらのイメージを映像化するところに、写真や、ライティング(照明)、演出力が必要になってくるわけです。
ですから、被写体のイメージを映像化するのが目的だとすると、写真や照明の技術は、単なる手段でしかないのです。
目的がないところに、手段だけ求めても、それは無意味です。
イメージを映像化したいと四苦八苦するところに技術の発達があるわけで、技術を習得したらなんでも撮れますよ。というのは、ナンセンスなわけです。
今述べたことは、芸術写真の方法論ではなく、ちょっとした商品写真や、趣味の写真にも生きてきて、それらを意識しているだけで、写真は驚く程違ってきます。
人は、ある事柄に対して、幾つかのボキャブラリ(語彙)を持っています。
例えば、「怒っている」という感情の状態を表すには、
怒る、怒りに震える、頭にくる、激怒する、憤慨する、怒髪冠を突く
等、いくつかボキャブラリがあります。
西欧では、同じ「怒り」でも人間の怒り、神の怒りでは言葉が違います。

人間は、ボキャブラリのイメージによって、物事を考える作業をしますから、ボキャブラリの数が多いほど、その人の言語的表現力は豊かになっていきます。
写真についても同じことが言えます。
その人のイメージのボキャブラリが豊富なほど、あるもの、ある概念をイメージ化する表現力は優れてきます。

人間が見聞きした経験は、ほとんど脳に保存され、何かを思い出そうとすると、コンピュータがハードドライブにアクセスするように、脳の記憶保存庫にアクセスして、記憶を取り出すそうです。
「忘れた」というのは、記憶データが無くなったのではなく、一時的に、もしくは永久的に「アクセス不能」になった状態だそうです。
ですから、ある日、突然、忘れていたことを思い出したり、記憶がのど元まで出かかっているのに、思い出せない。という状態が出てくるとのこと。
ですから、自分が出かけて行って、見て、触れて、感じた、印象的な体験・映像は、データとしてしっかりと脳に記憶されていきます。
それが、何かを表現しようとするときに、脳から取り出されてくるわけです。

普段から、様々な生活のシーン、何でもよいですから、自分の気を引いたものは、意識して、映像としてインプットしておくと良いと思います。それらが、あなたの映像のボキャブラリになっていきます。余談ですが、コンピュータの画面から得る情報や映像は、脳にとっては、単なる平面な板であるディスプレー上からの刺激として認識されるだけで、記憶に深く残らないそうです。
脳に記憶を効果的に置きとどめるためには、行って、見て、触れて、感じる作業が必要だということは、多くの能学者が指摘しているところです。
ですから、具体的には、いつもカメラの目で、生活の中で興味深く自分の回りを観察していく作業が効果的だと思います。
私は、外で写真に撮りたい場面に遭遇すると、自分だったら、これを撮る時には、何時頃に、こんな光で、あんな演出をして撮るだろう。と考えてそれをイメージ化します。その方が実際にカメラに収めるより、無制限に、効果的にイメージトレーニングができるからです。これは、なんと言っても、楽しい作業です。そして、ある日突然、撮影の現場で、その記憶が出てくる事があります。
そのような、イメージ的なボキャブラリが増えてくると、あなたの写真表現もより豊かになってくると思います。写真は、ただ撮るだけの作業ではないのです。シャッターを押すのは最終的な作業だと言って良いと思います。

コラム

※エディトリアル写真は、広告写真と比べギャラが安いのが一般的です。しかし、その代わり、制約が少なく、カメラマンが思う存分自分の世界を表現することができます。私が最もエディトリアルの仕事で忙しかったころは、編集者が、現場に来ないで、「縦位置、カラーで撮って。それだけ。任せたよ。」なんて白紙委任状をいただくことも多く、大らかで良い時代でした。


※35mm一眼レフでは、標準レンズが50mmです。この画角が最も人間の視野に近いと言われています。しかし、私は昔から50mmレンズの画角は不自然で嫌いでした。最もしっくりくるのは35mmのレンズ。私の肉眼は視野が結構広く35mmレンズの視野角に近いのでそう感じるのかもしれません。で、仕事に使うレンズは24mm、35mm、80mm、105mmのマクロレンズ4本だけでした。今もそうです。望遠は不自然で、仕事で要求がない限り使いません。


※私が使用していたカメラは、ニコンF3, F4、マミヤRZ67、ジナー(4×5、8×10)でした。現在は、ニコンD700、時々PhaseOneを使っています。最も使用頻度が多かったのがマミヤ。とても使いやすくレンズも秀逸で良いカメラでした。HPに掲載しているポートレートはほとんどマミヤで撮っています。15年ほどの使用歴で一度もトラブルになったことがなく良い子でした。例外的にポートレートでローライのSL66を使いましたが、モノクロ向きで素晴らしいレンズ(ゾナー150mm)が印象的でした。